『ライザのアトリエ』の主人公・ライザと自由に会話できるAIアプリ「RyzaChat」。
8月25日に国内配信が始まったばかりですが、わずか2日後の8月27日、運営元のSpiralAIが利用規約に違反する行為について注意喚起しました。
確認されたのは、アプリ内部からキャラクター素材や音声などを抜き出し、それをコンテンツ制作などに利用する行為です。
さらにSNSでは、運営が制作していない「生成AIで作られたとみられるライザの画像や動画」も拡散しているとしています。
このニュース、単なるゲームアプリの規約違反として見ると小さな話に見えます。
しかしRyzaChatが「原作クリエイターや声優の権利を守りながら、公式キャラクターをAI化する」という方針で作られたサービスだったことを考えると、かなり興味深い出来事です。
そもそも「RyzaChat」って何?
RyzaChatは、『ライザのアトリエ』シリーズを題材にしたスマートフォン向けAIチャットRPGです。
開発したのは生成AIスタートアップのSpiralAI。コーエーテクモゲームスから正式にライセンスを受けています。
普通のゲームとはかなり仕組みが違います。
プレイヤーがライザへ話しかけると、その会話によって物語が変化。
「森へ素材を取りに行こう」
「集めた素材で武器を作ろう」
といった普通の冒険だけでなく、「クーケン島に温泉街を作ろう」といった原作ゲームでは用意されていない展開も会話から作れます。
決められた選択肢を選ぶのではなく、ライザとの会話そのものがゲームになるわけです。
テキスト対話には、原作シナリオや設定を基にしたSpiralAI独自の「SpiralLLM」が使われています。
そして重要なのが、ライザの見た目や声の扱いです。
実は「画像生成AIを使わない」ことを明確にしていた
RyzaChatはAIゲームですが、何でも生成AIで作っているわけではありません。
むしろ公式は、キャラクター表現についてかなり慎重な方針を打ち出しています。
公式サイトでは、イラストについて画像生成AIを使用せず、キャラクターデザインを担当したトリダモノ氏監修のもと、すべて人の手で制作していると説明しています。
ライザの声についても、原作でライザを演じる声優・のぐちゆりさん本人の許諾を得た収録音声をベースに使用。
許諾のない音声を学習・使用しないことも明記されています。
さらに収益の一部は、協力したクリエイターへ還元する仕組みです。
つまりRyzaChatは、
「人気キャラクターを生成AIで勝手に再現する」
のではなく、
「権利者やクリエイターの許諾を得た上で、公式キャラクターをAI化する」
という方向をかなり強く意識したサービスです。
だからこそ、今回の出来事が興味深くなります。
配信2日後、素材抜き出しなどで注意喚起
RyzaChatの国内配信開始は8月25日。
ところが8月27日には、運営が「利用規約に違反する行為への対応とお願いについて」と題した注意喚起を出しました。
運営によると、アプリ内に含まれるキャラクター素材や音声などを抜き出し、それをコンテンツ制作などに利用する行為が確認されたとのこと。
アプリを解析して内部データなどを調べるリバースエンジニアリングなどは利用規約で禁止されています。
さらに別の問題も起きました。
SNS上では、生成AIで制作されたとみられるライザの画像や動画が拡散。
これについて運営は、自社が制作・提供したものではないと説明しています。
悪質なケースについては、関係各所と連携して対応するとしています。
ここで注意したいのは、「生成AIでライザの画像を作ることすべてが今回確認された規約違反と同一」という意味ではないことです。
運営が明確に規約違反として説明しているのは、アプリ内データの抜き出しなどです。
SNS上の非公式生成画像・動画については、それとは分けて考える必要があります。
はてブ140users超、やはり注目されたのは「AI×キャラクター」
この注意喚起を伝えたAUTOMATONの記事は、記事化時点ではてなブックマーク142usersを集めています。
反応を見ると、単なる不正利用への批判だけでなく、
「人気キャラクターをAIチャット化すると、こうした問題は避けにくいのでは」
という方向へ関心が広がっているのが特徴的です。
また、サービスそのものもかなり利用されています。
運営は配信開始から間もなく、ライザの累計発話数が100万回を突破したと発表しました。
つまり、ほとんど利用者がいない小規模な実験サービスで問題が発生したわけではありません。
正式な人気IPを使ったAIキャラクターサービスとして多くのユーザーが一気に触れ、その結果、これまで想定されていた課題が早い段階で表面化したと見ることもできます。
みらいアンテナの見方:公式が慎重でも「その先」は制御できない
今回のニュースで特に興味深いのは、運営側がかなり慎重にAIを扱っていたことです。
画像生成AIは使わない。
声優本人の許諾を取る。
原作企業から正式なライセンスを受ける。
クリエイターへ収益を還元する。
AI時代のキャラクターサービスとしては、かなり「公式らしい作り方」をしています。
それでも、サービスを公開すると、その外側ではユーザーが別の生成AIを使って画像や動画を作ることができます。
アプリのデータを不正に取り出そうとする人も出てきます。
ここに、公式キャラクターをAI化する難しさがあります。
従来のゲームであれば、ユーザーが遊ぶコンテンツの大部分はメーカー側があらかじめ作ったものでした。
しかしAIキャラクターでは、ユーザーとの会話によって体験そのものが生成されます。
さらに、その体験をスクリーンショットや動画としてSNSへ持ち出せば、公式サービスの外側でもコンテンツが増殖していきます。
「どこまでが公式のライザなのか」
という境界線が、従来より分かりにくくなります。
今回、運営が「SNSで拡散している生成AI画像や動画は自社が制作・提供したものではない」とわざわざ説明したのも、この問題を象徴しているように見えます。
キャラクターAIが増えれば、同じ問題も増えそう
RyzaChatが成功すれば、同様のサービスが増える可能性があります。
実際、開発側はサービスが好評なら、ライザ以外のキャラクターを使ったアプリ展開も検討していると説明しています。
好きなゲームやアニメのキャラクターと自然に会話できる。
しかも、そのキャラクターが自分との過去の会話を覚えている。
ファンにとって魅力的な体験なのは間違いありません。
一方でキャラクターの人格、声、画像、会話ログ、生成されたコンテンツをどこまでユーザーが利用できるのかという問題も大きくなります。
キャラクターAIが普及するほど、
「AIがどれだけ賢いか」だけでなく、「キャラクターIPをどう管理するか」
がサービスの重要な部分になりそうです。
今後見るポイント
まず注目したいのは、今回の注意喚起後に具体的な対策が追加されるかです。
悪質なデータ抽出に対する技術的な対策だけでなく、非公式コンテンツと公式コンテンツをユーザーが区別しやすくする仕組みも重要になるかもしれません。
そして、より大きなポイントはRyzaChatそのものが定着するかどうかです。
累計発話数は早くも100万回を突破しましたが、AIチャットサービスでは継続利用が重要です。
さらにライザ以外のキャラクターへ展開されれば、「公式キャラクターAI」というジャンル自体が広がる可能性があります。
今回のトラブルは、その未来で各社が直面する問題を少し早く見せた出来事なのかもしれません。
まとめ
『ライザのアトリエ』の主人公と会話できるRyzaChatが、国内配信開始からわずか2日で利用規約違反への注意喚起を行いました。
確認されたのは、アプリ内のキャラクター素材や音声などを抜き出して利用する行為。
さらにSNSでは、運営が制作していない生成AI製とみられるライザの画像・動画も拡散しています。
興味深いのは、RyzaChat自身が画像生成AIを使わず、声優の許諾やクリエイターへの還元まで意識して作られた公式AIサービスだということです。
公式側が慎重にAIを使っても、サービスの外側で生成されるコンテンツまでは完全には制御できない。
キャラクターと自由に会話できる時代には、「キャラクターをどうAI化するか」と同じくらい、「どこまでを公式として守るのか」が重要になりそうです。

