日本銀行の次の利上げが、かなり現実味を帯びてきました。
日銀の氷見野良三副総裁は8月27日、埼玉県で開かれた金融経済懇談会で、物価の上振れリスクへの警戒を強める必要性を指摘しました。
市場では9月17~18日の金融政策決定会合で、政策金利が現在の1.0%から1.25%へ引き上げられるとの見方が強まっています。
一方で、為替市場を見ると円高が急速に進んでいるわけではありません。
8月28日のニューヨーク市場では、ドル円は一時1ドル=159円台後半で推移しています。
「日銀が利上げするなら円は上がるはずでは?」
そう感じる人も多いと思います。
今回は、日銀の発言で何が変わったのか、そしてなぜ利上げ観測が強まっても円安が続いているのかを整理します。
氷見野副総裁が「物価上振れリスク」への警戒を強める
8月27日、氷見野副総裁は「最近の金融経済情勢と金融政策運営」と題した講演を行いました。
日銀が公開した資料によると、氷見野副総裁は基調的な物価上昇率が2%の物価安定目標を上回る可能性にも注意する必要があるとの認識を示しています。
さらに記者会見では、情報を十分に確認することと、インフレ対応が後手に回らないよう「適時」に行動することのバランスが重要との考えを示しました。
ポイントは、単に「利上げする」と宣言したわけではないことです。
日銀の公式スタンスは、あくまで各金融政策決定会合で経済・物価情勢を確認して判断するというものです。
ただし今回の発言は、従来以上にインフレの「下振れ」よりも「上振れ」を警戒する内容になっています。
市場が9月利上げの可能性を意識するのは、このためです。
Reutersも、氷見野副総裁が9月の利上げを明確に否定しなかったことから、市場では発言をタカ派寄りと受け止める見方が出ていると報じています。
市場は9月利上げを約85%織り込み
重要なのは、「日銀が9月利上げを決めた」わけではない点です。
現時点で確認できるのは、市場参加者がその可能性をかなり高く見積もっているということです。
Bloombergの市場データを基にした報道では、8月27日朝時点のオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)は、9月会合での利上げをおよそ85%織り込んでいました。
また、Reutersが8月25日に公表したエコノミスト調査でも、政策金利を9月に1.0%から1.25%へ引き上げるとの予想が中心になっています。
整理すると、
確認できる事実
- 現在の政策金利は1.0%
- 次回会合は9月17~18日
- 氷見野副総裁はインフレ上振れリスクへの警戒を強調
- 日銀は9月利上げを正式決定していない
市場の見通し
- OIS市場では9月利上げを約85%織り込み
- Reuters調査では9月に1.25%へ引き上げるとの予想が優勢
という状況です。
「85%の確率で利上げする」と日銀が表明したわけではありません。
ここはニュースを見るうえで区別しておきたいポイントです。
東京の物価も再び2%に接近
日銀がインフレ上振れを警戒する材料も出ています。
8月の東京都区部の生鮮食品を除く消費者物価指数は前年同月比1.8%上昇。
さらに、生鮮食品とエネルギーを除く指数は2.0%上昇しました。
日銀が重視する基調的なインフレが2%前後で推移する可能性が意識される数字です。
加えて、現在の日本経済では別のインフレ要因もあります。
円安による輸入価格上昇に加え、中東情勢を背景としたエネルギー価格、世界的なAI投資に伴う需要などです。
つまり日銀にとっては、
「景気を冷やすほど利上げしたくない」
一方で、
「金利を低く維持しすぎてインフレを加速させるのも避けたい」
という難しい局面になっています。
それでもドル円は159円台
ここが今回のニュースで一番興味深いところです。
通常、日銀の利上げ観測が強まれば、
日本の金利上昇
↓
円資産の相対的な魅力上昇
↓
円買い
↓
円高
という流れが想定されます。
しかし実際には、円は依然として1ドル=159円台です。
8月28日のニューヨーク外国為替市場では、ドルが対円で約159.9円まで上昇しました。
最大の理由は、為替が「日本の金利だけ」で決まるわけではないからです。
米国も利上げ観測が強まっている
今回のドル円を見るうえで、日銀以上に重要なのが米国です。
FRBのケビン・ウォーシュ議長は8月28日のジャクソンホール講演で、インフレが2%へ向かわなければ追加的な金融引き締めが必要になる可能性を示しました。
Reutersによると、発言を受けて9月FOMCでの0.25%利上げ織り込みは、それまでの約35%から約50%へ上昇しました。
つまり現在は、
日本:利上げ観測が上昇
だけではなく、
米国:こちらも利上げ観測が上昇
という状況です。
為替市場で重要なのは日本の金利の絶対値より、日米の金利差とその将来予想です。
日銀が0.25%利上げしても、FRBも利上げ方向へ動けば、日米金利差が劇的に縮小するわけではありません。
そのため、
「日銀利上げ観測=即円高」
という単純な構図にはなっていません。
為替介入でも円安を止め切れていない
さらに日本政府は、すでに大規模な為替介入を実施しています。
財務省のデータについてReutersは、7月30日から8月26日までの介入額が15.4兆円に達したと報じています。
それでも円は再び160円近辺まで下落しています。
これは現在の円安が単純な投機だけではなく、
- 日米金利差
- 海外投資による円売り
- エネルギー輸入
- 日本の金融・財政政策への見方
など、複数の要因によって形成されていることを示しています。
為替介入で短期的に円を買っても、経済的な構造が変わらなければ再び円売り圧力が強まる可能性があります。
ネットでは「利上げしたのになぜ円安?」という疑問も
RedditのJapanFinanceでは以前から、
「日銀が1%まで利上げしたのに、なぜ円は弱いままなのか」
という疑問が投稿されています。
確認できた関連スレッドでは93票を集め、コメントでは「利上げはすでに市場に織り込まれていた」「日本だけでなく米国側の金利も重要」といった意見が出ていました。
今回の状況にも通じます。
金融市場では、実際に利上げが発表された瞬間よりも、その数週間~数カ月前から市場参加者が予想して取引します。
現在9月利上げが約85%まで織り込まれているのであれば、仮に日銀が実際に1.25%へ利上げしても、それだけで大幅な円高になるとは限りません。
むしろ重要なのは、その後です。
本当に見るべきなのは「1.25%の次」
今回の日銀報道を見るとき、「9月に利上げするか」だけに注目すると少し視野が狭くなります。
市場にとってより重要なのは、
日銀が1.25%まで上げた後も利上げを続けるのか
という点です。
Reutersのエコノミスト調査では、2027年3月末までに政策金利が少なくとも1.5%になるとの予想も増えています。
もし市場が、
「1.25%で利上げ終了」
と判断すれば、円高効果は限定的になる可能性があります。
逆に、
「1.5%、1.75%へ継続的に引き上げる」
との見方が強まれば、日米金利差縮小を意識した円買いが起こる可能性があります。
さらにFRBがどこまで金利を上げるのかも同時に見る必要があります。
まとめ
日銀の氷見野副総裁がインフレ上振れリスクへの警戒と「適時」の政策対応を強調したことで、9月利上げ観測はかなり高まっています。
市場では9月の0.25%利上げを約85%織り込む状況となっていますが、これはあくまで市場予想であり、日銀が正式に利上げを決定したわけではありません。
そして重要なのは、利上げ観測が強まっても円が159円台にとどまっていることです。
背景には、米国側でも利上げ観測が強まり、日米金利差が急速に縮小するとの期待が高まっていないことがあります。
今後は「日銀が9月に1.25%へ上げるか」だけでなく、
日銀がその先も利上げを続けるのか
FRBがどこまで金融引き締めを続けるのか
という二つをセットで見る必要があります。
ドル円が160円近辺まで戻った現在、9月18日の日銀会合は今年の為替市場でも特に重要なイベントの一つになりそうです。
