15兆円超の介入後、ドル円が再び160円台へ
「15兆円以上を使って円を買ったのに、もう160円台?」
そんな印象を持った人も多いかもしれません。
8月28日のニューヨーク外国為替市場で円安・ドル高が進み、ドル円は一時1ドル=160円20銭付近まで上昇しました。
160円台をつけるのは、7月末に日本と米国が円買いの協調介入に踏み切って以降で初めてです。
財務省が8月28日に公表したデータによると、7月30日から8月26日までに実施された外国為替介入の総額は、
15兆3,993億円
でした。
7月下旬にはドル円が一時164円近くまで円安となっていましたが、介入後には155円20銭付近まで円高が進む場面もありました。
そこから約1カ月で160円台まで戻ったことになります。
ただ、「15兆円の介入が全部無駄だった」と考えるのは少し早そうです。
今回の160円台回復には、米国側で新たな材料が出てきたことが大きく影響しています。
きっかけはウォーシュFRB議長のジャクソンホール講演
今回、ドル買いが急速に強まったきっかけは、FRB(米連邦準備制度理事会)のケビン・ウォーシュ議長によるジャクソンホール会議での講演でした。
ウォーシュ議長は、FRBが重視するPCE物価指数について、前年比の上昇率が3.7%、直近6カ月では年率換算4.1%と説明。
FRBが目標とする2%を依然として上回っています。
そのうえで、基調的なインフレ率が2%へ十分なペースで向かっているとの確信が得られなければ、FRBには追加対応が必要になるとの考えを示しました。
市場はこれを「FRBが再び利上げする可能性が高まった」と受け止めました。
ロイターによると、9月のFOMCで0.25%の利上げが行われる確率は、講演前の約35%から57%程度まで上昇しました。
米2年国債利回りも4.36%付近まで上昇。ドルが主要通貨に対して買われ、ドル円も160円台へ押し上げられました。
「利上げ決定」ではない点には注意
ここは今回のニュースで少し注意したいところです。
ウォーシュ議長が、
「9月に利上げする」
と明言したわけではありません。
講演の最後では、特定の政策決定ではなく、金融政策の「規律」にコミットしているという趣旨も強調しています。
つまり現時点で確定しているのは、
- 米国のインフレ率が依然として高い
- FRBは物価抑制を重視している
- 必要なら金利を引き上げる余地を残している
というところまでです。
現在、FRBの政策金利は3.50~3.75%。
一方、日銀の政策金利は1.0%程度です。
今後FRBが利上げし、日銀が金利を据え置けば、日米の金利差が再び拡大する可能性があります。
為替市場が今回強く反応したのは、「今の金利差」以上に、これからの金利差がどうなるかを織り込み直したためと考えると分かりやすいでしょう。
ネットでは「介入しても戻った」への反応
今回の160円台回復について、Yahoo!リアルタイム検索では、
「日米協調介入までしたのに160円台へ戻った」
という点に驚く投稿が目立ちます。
また、円安による食品やガソリンなど生活コストへの影響を心配する声がある一方、海外株式を持つ投資家からは、円安によって外貨建て資産の円換算額が押し上げられるため「複雑」という反応も見られました。
一方、今回の160円台回復そのものについては、記事化時点ではRedditやはてなブックマークで大規模な議論にはなっていません。
ただし、7月末の日米協調介入について扱ったRedditの投稿には300を超える投票が集まり、
「介入だけでは根本的な金利差は変えられない」
という趣旨の見方が以前から多く出ています。
今回の160円台回復で、その議論が再び注目される可能性はありそうです。
みらいアンテナの見方:介入は「160円を永久に守る仕組み」ではない
今回のニュースを見るうえで重要なのは、
「160円台に戻った=介入失敗」
と単純化しないことです。
為替介入には、市場の流れそのものを永久に変えるというより、急激で一方向的な値動きを抑えたり、投機的な円売りに警戒感を持たせたりする役割があります。
実際、介入後にはドル円が155円台まで動き、投機筋の円売りポジションも大きく減少しました。
一定の効果はあったと見る方が自然です。
一方で、為替の大きな流れを決めるのは最終的に、
日米の金利差、インフレ、景気、財政政策などのファンダメンタルズ
です。
今回のようにFRBの利上げ観測が急に高まれば、介入後であっても再びドル買い・円売りが進むことはあり得ます。
むしろ今回面白いのは、15兆円超という非常に大きな介入が行われたにもかかわらず、わずか1カ月後には再び160円という節目が試されている点でしょう。
ここから政府が再介入するのか。
それとも日銀の追加利上げによって金利面から円安を抑えるのか。
次の一手への注目度が一気に高まっています。
次に見るべきは9月の日米金融政策
今後、特に重要なのは9月中旬です。
米国では9月15~16日にFOMCが予定されています。
そして日本では、その直後の9月18~19日に日銀金融政策決定会合が開かれる予定です。
見るポイントは主に3つです。
- FRBが本当に追加利上げへ動くのか
- 日銀が1.0%からさらに金利を引き上げるのか
- ドル円が再び急上昇した場合、日本・米国が再介入するのか
日本の財務省は8月3日、今後も必要なら米国とのさらなる協調介入をためらわないとの姿勢を示しています。
そのため「160円になったら自動的に介入」という単純なラインがあるわけではありませんが、円安のスピードが再び速くなれば、市場では介入への警戒も強まりそうです。
15兆円超の介入から約1カ月で戻ってきた160円台。
今回の数字そのもの以上に注目したいのは、9月の日米金融政策によって、円安の流れそのものが変わるのかという点です。

